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1440分の投資戦略

「死」から逆算して時間を割り振る。星野佳路の最優先事項とは

author 取材・文: 西山美紀 撮影: 貝守広貴
「死」から逆算して時間を割り振る。星野佳路の最優先事項とは

「時間」――それは人生において最も重要な資産ではないでしょうか。自分が望む働き方や人生を実現するためには、限られた時間(1日24時間=1440分)を何に分配、投資していくのか、戦略的な視点が欠かせません。この「1440分の投資戦略 やめるに勝る時短なし」特集では、単なる時短術にとどまらない「時間投資ストラテジー」を紹介していきます。

第1回は、星野リゾート代表の星野佳路さんにお話を伺いました。星野さんが時間を最優先に投資しているのは、実は「経営」ではないのです。今回は前編です。

▶︎後編はこちら

会食しない、会議に出ない、成果を求めない。星野佳路の時間投資術


星野佳路(ほしの・よしはる)

1960年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了。1914年に創業した星野温泉旅館の4代目で、91年星野リゾート前身の星野温泉社長(現代表)に就任。著書に『星野佳路と考えるファミリービジネスマネジメント』(日経BP)など。

――今回の特集テーマは「時間」です。ライフハッカー[日本版]では時間は金融資産に並ぶ、もしくはそれ以上に価値の高いものではないかと考えています。「時間」という資産について、星野さんはどのように捉えていらっしゃいますか。

おっしゃる通り、時間は資産です。私は「自分の人生の残り時間はどれくらいあるのか」ということを常に意識しています。

そうすると、年齢によってできることが変わってくることがわかります。私の今の年齢(61歳)から考えると、ここからの10年というのは非常に貴重な時間になっていくと考えています。

私は「人生最後のときに後悔しないこと」を一番大切にしています。だから、残り人生から逆算して、自分自身の時間を管理するようにしています。

「自分は80歳で死ぬ」と仮定して時間の使い方を考える

――残り人生、といいましても人の余命は読めないものですよね。そこはどう考えているのでしょうか?

もちろんそればかりはわかりません。でも、父や祖父などが80歳前後で心臓を患って亡くなってきたのを見てきて、「星野家の人間は80歳で死ぬ」ということが遺伝子に組み込まれているような気がするんです。

それより短かったらそれはそれで仕方がないし、長かったらラッキーという程度の話。でもそこ(終わり)を意識しないと、今この時をどう有効活用するのかという視点は生まれてこないと思っています。

――星野さんは自己管理において、「一日1万歩以上歩く」「睡眠は7時間以上」「深い睡眠(ノンレム睡眠)を3時間以上」など、目標を数値で明確にされている印象があります。やはり具体的な目標値というものがあるのとないのとでは違うのでしょうか。

数字を決めると、人の行動は大きく変わっていきます

例えば、新型コロナウイルスの感染者数が毎日発表されていますが、その数字を見ることで「気をつけなくてはいけないな。もっと感染者数を減らさなくては」といった行動変容が起きますよね。増えたり減ったりする数字を見ながら、自分の行動を変えようと意識するようになるのです。

経営者が売上や利益、ホテルでいえば「稼働率」などを掲げるのも同じことで、その数字を見せることでスタッフに危機感を持たせたり、より積極的な営業活動をするように行動変容を促しているのです。

一方で、「本当は大事なことなのに可視化(数字化、明確化)されていないこと」もたくさんあります。ホテルなどの業態なら本来は「お客様に喜んでいただくこと」が一番大切であるべきなのに、そういったことは数字に表現しづらいから放置されている。

可視化されている数字に影響され過ぎないこと、可視化されていない大事なことを忘れないことを心がけています。

「倒産確率」を可視化した理由

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――コロナ禍で大きな話題になった、星野リゾートが発表している「倒産確率」も、普通は可視化されない数字ですよね。予約や財務状況など、いくつかの変数を元に「倒産確率」を算出され、社員向けに「2020年5月は38.5%」という数字を出され、世の中に大きなインパクトを与えました。

現在の倒産確率は、15%程度(2021年5月時点)に下がっています。これも普通は可視化されないであろう「倒産確率」という数字をあえて共有することで、スタッフの行動変容を期待しています。

普段と違った視点の数字をしっかり立てることが、バランスを取るうえで重要だと考えています。いろいろな角度からの数字を見ることで、自分のものの考え方や予定の立て方が大きく変わってくるのです。

――働き方という観点でみると、「働く時間(勤務日数や総労働時間)を決める」人も多いかと思いますが、星野さんの場合はいかがでしょうか?

ここ数年は働く時間ではなく、「スキーの年間滑走日数60日」を目標においています。これは星野リゾートのあらゆる経営目標よりも優先される、必達の目標です。

その数字の立て方も真剣です。毎年、その年のスキーの滑走日数や結果を振り返って改善を重ねています。例えば「60日」といっても、本当にいい天気で、良い雪で、楽しいスキー日和だったなと思えるのは、実は10%程度しかありません。つまり年間たったの6日。

数年前にこのことに気づいて、これは改善しなくてはと思いました。年間60日も滑っているのに、理想的な日が、なぜたった6日しかないのだろう……と。

出た結論は「季節」と「天気」でした。滑る日を事前に決めていても、天気が悪いなど、スキー日和ではない日もあるわけです。

それに気づいてからは、シーズン中の午前中は滑る時間として空けておき、午後をテレワーク中心の生活にするようになりました。つまり、「天気のいい日」は何をおいてもスキーを優先することで、理想的な状況で滑れる日を増やす。そうすることで人生の満足度をより高めているのです。

コロナがきっかけとなり、テレワークは日本全国だけでなく、世界中どこからでも参加できるようになりました。以前は肩身の狭い思いをすることもありましたが、今はみんなテレワークなので、よりやりやすくなりました。

――確かにテレワークが進んだことで、海外からでも会議などに参加しやすくなりました。

日本ではスキーができない7月と8月は、私は南半球のニュージーランドなどに行っています。現地で家を借りて、朝からスキーに行き、午後3時に家に戻ってきて、4時に着替えてパソコンの前に座ると、ちょうど日本の午後1時ごろ。

つまり、ニュージーランドにいながら、日本での午後の会議はテレワークで全部参加できてしまうのです。あちらは真冬で寒い時期ですが、真夏の日本にあわせて半袖に着替えてしまえば、一体どこから参加しているのかわからない状態。

以前は、そんな形でテレワークに出るのは私ぐらいでしたから、カモフラージュするのが大変でしたけど、そんな心配も今はなくなりました。

「今スキーをしなければ死ぬときに後悔すると思った」

――星野さんが生活の中心にスキーを置かれるようになったのはなぜですか?

長野県で生まれ育って、子どものころからスキーを当たり前のようにやってきたことが大きいです。社会人になってしばらくブランクがありましたが、リゾートの仕事をする中でアルツ磐梯やトマムなどのスキー場経営を始めたことで、再びスキーをやるようになりました。

また、世界の一流リゾートに視察に行ったときに、今まで私が日本で見てきたスキーの世界とは、まったく違っていることに驚きました。スキーがこんなに進化し、発展していっていることを肌身で感じ、さらに深くのめり込むようになりました。

そのとき、私は50歳ぐらいでした。先ほど申し上げた「星野家の余命」を考えると、人生は残り30年ということになる。さらに残りの人生を前半の15年(50~65歳)と後半(66歳~80歳)に分けて考えると、後半はさすがにスキーをするのが難しくなってくる可能性があると思いました。

そう考えると、私が純粋にスキーを楽しめるのはあと15年しかないのかもしれない。このとき、「今、滑走日数を設定して滑らない限り、自分が死ぬときに後悔する。『もっと滑っておけばよかった』と思うはずだ」と感じたんです。

仕事ももちろん大切です。でも、死ぬときに「もっと経営を一生懸命がんばればよかった」という後悔は、私の場合は絶対にないという確信がありました。

経営は、やってもやってもキリがありません。最終到達点はないんです。だから、「もっとがんばればよかった」と思うことはないはず。

それなら、50歳からの15年間は、仕事に加えて、スキーにも全力を注ごうと思って、年間滑走日数の目標を立てたんです。

――まさに、ご自分の「行動変容」を促すために、年間の数字を設定されたんですね。

私は経営に関して、利益や売上といった数字にこだわりはもっていないのですが、あえて自分のスキーの年間滑走日数だけは必達目標にして、1日1日、数字を把握することにしました。

実は、最初は50日という目標だったんです。でもそれが普通にクリアできるようになって、7月や8月に南半球へ行くようになり、「年間60日もいけるのでは」と思って上方修正しました。

仕事でプロスキーヤーの方たちと一緒に滑ることもあるのですが、彼らは年間200日滑っているといいます。プロとアマチュアは比較対象にならないといえばそれまでですが、「自分もせめて年間3ケタの大台には乗せないと」と最近は思うようになりました。



「スキー」を人生の最重要目標において、そこに時間を投資し続けている星野さん。そうすることで人生の幸福度を最大限に高めているのです。後編では、より具体的な「時間の作り方」についてお聞きしていきます。

▶︎後編はこちら

会食しない、会議に出ない、成果を求めない。星野佳路の時間投資術


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