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社会不安が高まると流行るものは?身近なネタから学ぶ「心理学」

社会不安が高まると流行るものは?身近なネタから学ぶ「心理学」
Photo: 印南敦史

「心理学を学んでみたい」という気持ちがあるのに、いざ入門書を購入してみると、なかなか入り込めない。

そんな人が多いのは、心理学にはおもしろい実験や調査が多いにもかかわらず、そうした研究が入門書にはまったく載せられていないから。 そう指摘するのは、『世界最先端の研究が教える すごい心理学』(内藤誼人著、総合法令出版)の著者。

社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に尽力しているという心理学者です。

そこで本書では、よくある心理学の本に出てくる「ネタ」を取り上げるのをやめました。 私がこれまでに読んできた論文のうち、「へえ、これは知らなかったなあ」とか「面白い研究をやってるんだなあ」と、私自身が驚いたものだけを取り上げていきます。

とにかく、とびっきり面白い心理学の本を作ってみよう、という意図で執筆しました。(「まえがき」より)

そんな本書の第3章「『人間』が見えてくる心理学研究」のなかから、いくつかのトピックスを抜き出してみることにしましょう。

人が誰かに親切になるとき

電車に乗っているとき、ほかの誰かがお年寄りに席を譲っている場面を目撃したとしましょう。

「親切な人もいるものだなあ」と感心していると、座っている自分の目の前に別のお年寄りがやってきました。そんなときは、おそらく自分も席を譲るはず。

人は、誰かが親切にしているのを見たら、自分も同じことをするものなのだというのです。

米国イリノイ州にあるノース・ウェスタン大学のジェームズ・ブライアンは、女性のアシスタントをパンクした自動車の横に立たせ、援助を求めさせるという実験をしたことがあるそうです。

1000台の車が通り過ぎたところで実験を終了させた結果、停車して援助の手を貸そうと申し出てくれたのはわずか35台だったのだとか。

次にブライアンは、パンクして停車した自動車の4分の1マイル後方に、もう1台のパンクした自動車を置きました。

そして前方の車では、男性アシスタントがジャッキで車を持ち上げてタイヤ交換をして別の女性アシスタントを助けている、という場面を設定してみたといいます。

つまり通り過ぎていく自動車は、まずほかの男性が親切に女性を助けている場面を目撃し、4分の1マイル進んだところで、似たように困っている女性に出会うことになるのです。

ちなみにこの実験が行われた道路は、交差点も曲がる道もなく、中央分離帯があるため逆走することも不可能。

そのため親切な男性を目撃した人は、そのまま直進し、困っている女性に出会うことになるということ。

その結果、1000台の車が通り過ぎるうち、最初の実験よりも多い58台の車が助けてくれたのだといいます。

親切にしている場面を目撃すると、同じように親切にする人が増加したと言えるわけです。

こうした例を挙げたうえで、「私たちは、ほかの人が親切にしているのを目撃すると、無意識のうちに『自分も同じことをしてあげなきゃいけないな』と思うようになるのかもしれないと著者は記しています。

親切なことを目撃すると、誰でも人は同じように親切になるものなのだと。(98ページより)

なぜ都会の人は冷たいのか

一般的に、都会の人は「冷たい」と言われます。逆に、田舎の人は「温かい」と言われています。しかし実際のところ、都会の人がみんな冷たいというわけではありません。

冷たく振る舞ってしまうのは、都会だと「人が多すぎる」から。決して都会の人がみな冷たいわけではなく、彼らだって田舎の人と同じくらい温かな心は持っているわけです。

ではなぜ、人が多過ぎると人は不親切になってしまうのでしょうか。 その理由は、「わざわざ自分が助けなくとも、ほかの人が助けるに違いない」と考えてしまうからなのです。

都会であれば、自分以外にもたくさんの人がいるわけで、その中の誰かが助けるだろうから、自分が援助することもないだろうと思ってしまうのです。これを“責任の拡散現象”と言います。(100ページより)

米国カリフォルニア州立大学のポール・スコルニックは、ロサンゼルスの交通量が多い道路と、車があまり通らない田舎道の両方で、男性、または女性アシスタントが路肩に車を停め、援助を求めるという実験をしたそうです。

その結果、交通量の多いところでは、助けてもらうまでに通り過ぎた車は23.49台。しかし田舎道では助けてもらうまでに2.56台しか通り過ぎなかったというのです。

こう聞くと、「やっぱり都会の人は冷たいんだなぁ」と思いたくなりますが、そうとも言い切れないのだと著者。

というのも、午後2時から4時までと、午後8時から10時までと、時間帯を変えて実験をすると、午後8時から10時までは、都会でも助けてくれる人が多くなることがわかったそうなのです。

夜になると交通量は少なくなってくるわけで、そういう状況においてであれば、都会の人も困っている人を助けるということ。

なぜなら、「自分が助けてあげないと困るだろう」と責任を感じるから。

田舎から都会に出てきたばかりの人は、「都会の人は冷たい」というイメージを持ってしまいがち。しかし、そんなに心配しなくても大丈夫だといいます。

上記の実験からもわかるように、都会の人だって、田舎の人と同じくらい親切心は持っているからです。(100ページより)

社会不安が高まると流行るもの

星占いが流行りはじめるのは、心理学的にはあまりよくない兆候なのだそうです。

人間は不安を感じはじめるとなにかにすがりつきたいという気持ちになるものですが、その対象が占いだということになるから。

つまり星占いやその他の占いが流行りはじめるということは、それだけ「社会不安が広がりはじめている」という兆候でもあるということ。

カルト宗教が流行するのも同じですが、占いが流行しはじめるのも、たいてい社会に不安がじわじわと蔓延しつつあるときだというのです。

米国ウェストバージニア州にあるマーシャル大学のヴァーノン・パジェットは、1918年から1940年の、ドイツ国内の混乱の度合いと、星占い、神秘主義をキーワードにして論文数、雑誌の記事数の関連を調べたのだといいます。

するとわかったのは、第二次世界大戦に向けてドイツ国内に不安が広がるのに合わせ、星占いに関連した記事も増え続けるということ。

第二次世界大戦勃発の少し前、1936年3月ごろがピークだったそうです。

またパジェットは、失業、賃金、産業生産などの経済指標も、星占いによって予測できることを明らかにしているのだといいます。

失業が増え続け、賃金と生産が落ち込むほど、星占いはぐんぐん人気を伸ばしていたというのです。

星占いは、社会不安を読むためのまことに良い指標。大衆がどれくらい不安を抱えているのかを知りたければ、星占いやほかの占いがどれくらい流行っているのかを調べればいいのです。

「なんだか最近、街角に占い師が増えたなあ」 「デパートの一角に、占いコーナーが増えたように思うなあ」 と感じるのであれば、それは良くない兆候です。社会不安が広がっているというサインだと見なして間違いありません。(123ページより)

経済が好調で、社会になんの不安もない時には、人は強気でいられるもの。そんなときには、「占いの類はまったく信用しないんだよね」と言う人も増えるわけです。

ところがそうやって強がっている人も、経済がどんどん悪くなってくると、「占いもアリかな」と感じるようになるというのです。

人間はそれほど強い存在ではないので、心細くなってくると、なにかにすがりつきたくなるということです。(122ページより)


身近なネタが厳選されているだけあって、読みやすさは抜群。

学ぶというより楽しみながら心理学に接することができる、興味深い一冊です。

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Photo: 印南敦史

Source: 総合法令出版

印南敦史

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