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脳のコンディションを整えるために知っておきたい、新しい「睡眠常識」とは?

脳のコンディションを整えるために知っておきたい、新しい「睡眠常識」とは?
Photo: 印南敦史

仕事、人間関係や家庭の問題、あるいは経済的な事情など、現代人は多くのストレスを抱え込んでいるもの。

しかし脳内科医である『脳を「接待」する! 上手な脳内リズムの整え方』(加藤俊徳著、清流出版)の著者は、ストレス自体は悪いものではないのだと主張しています。

「ストレス学説」を唱えたフランスの生理学者ハンス・セリエは、ストレスの強さに伴う「心身の活性度」を六段階に分類しています(下図)。

この考え方でいえば2や3の“軽度”のストレスは、思考を活性化し、行動のモチベーションをもたらしてくれます。ほどほどのストレスがあることによって、人間は成長していけるともいえるのです。(「はじめに」より)

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Image: ライフハッカー[日本版]編集部作成(『脳を「接待」する! 上手な脳内リズムの整え方』より)

つまり、適度のストレスは人間の味方になってくれるということ。そのレベルで維持できるのであれば、ストレスも歓迎されるべきものだという考え方です。

ただ、それが強くなりすぎて悩みが深くなったり、強いうつ状態への引き金になったりするから困るということ。

だとすれば、強度2や3のレベルの“よいストレス”を保ち続けることができたら、ストレスに悩まなくてすむはず。

そう考えた結果、著者が行き着いたのが本書のテーマである「脳の接待」。いわばそれは、「脳をいつもいきいきとした状態に保つための方法」。

脳が元気で快調にリズムを刻むことができれば、とかく嫌われがちなストレスだって味方にしてしまえるということ。そればかりか脳のコンディションを整えることによって、たとえストレスを受けたとしても元気になれるのだといいます。

ところで著者によれば、過去の出来事を思い出したとき、気になって消えないものを「ストレス」(一般的にいう“よくないストレス”)と呼ぶのだそうです。

しかし本来、ストレス自体には「よい」も「悪い」もなく、その刺激が適度な緊張感をもたらすのであれば、それは「よいストレス」。

逆にその刺激で脳と体のリズムが乱されるとしたら、それは「悪いストレス」だということ。

ならば単に「ストレスを無毒化する」だけでなく、「悪いストレス」を軽減させて「よいストレス」に変換できれば、ストレスも役に立つということになるはず。

そしてそれは、ストレスとのつきあい方によって変わってくるものなのだそうです。

いいかえれば、ものごとを前向きに捉えられるように、脳のコンディションの整え方を身につけるための方法が「脳を接待する」という考え方。そのために大切なのは、自分の脳を常にベストなコンディションに持っていくようにすること。

こうした考え方に基づく本書から、きょうは「睡眠」に焦点を当てた第2章「究極の接待術『睡眠力』を高める」に焦点を当ててみたいと思います。

新しい「睡眠常識」が明らかになってきた

睡眠学の分野では、次々と新しい睡眠常識が証明されているそうです。その最たるものは、「昼間の神経細胞の活動の強度は、睡眠の質に大きく左右される」ということ。

これまでも唱えられてきたことが、改めて科学的に証明されたというのです。

そこで明らかになったのは、脳に情報が正確に伝わるためには、きちんと睡眠をとり、しっかり脳が覚醒している状態が不可欠だということ。

逆に、睡眠を十分とらずに闇雲に勉強したとしても、成績は上がらないということ。そればかりか「睡眠は7時間以上、9時間以内がベスト」ということも明らかになってきたのだといいます。

例えば、「睡眠時間が六時間以下だと、うつ病発症の可能性が四〇%」という統計報告があります。反対に九時間以上眠る「過睡眠」の場合は、四七%、約二人に一人がうつ病発症につながりやすいとされています。睡眠時間は短くても長くてもいけない、ということです。(69ページより)

ちなみに著者によれば、「うつ」は症状のひとつ。「うつ」や睡眠障害自体が病気なのではなく、相互に関係しあっていることが問題だというのです。

決して“心”の病気ではなく、睡眠障害が引き金になって、脳内のホルモンのバランスが崩れたり、脳の活動が低下するために、そのような症状が表れることが多いのだということ。(68ページより)

「睡眠のゴールデンタイム」を大切に

人間は夜の9時ごろから「睡眠ホルモン」と呼ばれる「メラトニン」の分泌が盛んになり、10時くらいから「成長ホルモン」が上がりはじめ、11時くらいから腸管の運動機能が低下するもの。

つまり9時から寝る準備をはじめ、ホルモン分泌が低下する午前3時までが勝負なのだそうです。なぜなら、この時間帯に分泌されるホルモンには、肉体の修復作用があるから。

つまり睡眠は「脳の活動が止まっている」状態ではないこと、単純に“休む”時間ではないということが、現代医学によってわかってきたというのです。

この脳内リズムに逆らって、睡眠のゴールデンタイムに起きていたりすると、体内時計が狂ってくることに。体内時計は、自分のなかのホルモンや脳活動を使って、体を健全に維持するための命令を発する役割を担いますが、その機能が低下してしまうわけです。

そして先にも触れたとおり、うつ病と睡眠障害は密接に関係しているため、この結果がうつ病のリスクをどんどん高めることにもなるというのです。

では、体内時計をリセットするには、どうしたらよいのでしょう。日中に外に出て運動することがいちばんです。外に出て光を浴びれば、視覚系脳番地が活性化します。すると、夜、よく眠れるようになります。(84ページより)

日光照射量の少ない北欧などでは、うつ症状改善の目的で光治療を行うのだそうです。

その結果、睡眠障害が緩和されるので、うつ症状も改善されるということ、逆に日光の勝者が低くなると、睡眠の質は確実に低下することに。

日が当たらないような住まいで室内生活を余儀なくされると、どうしても日光の照射が足りなくなるわけです。

つまり熟睡するためには、昼間に活動して光を浴びることが大事。そして夜にはぐっすり眠れば、日中を元気に過ごせるようになるわけです。

いってみれば、「夜のために昼が大事」「昼のために夜が大事」という相関関係なのだということ。(82ページより)

誰にでもできる、週50時間の「睡眠貯金」

日ごろ、なにもせずにボーっとしていたとしても、脳の疲れはとれないもの。それは単に、脳が怠けているだけの状態。脳を怠けさせることと、休息させることは違うわけです。

そして当然のことながら、脳を休ませる最高の手段は眠ることです。いわば睡眠は脳への最高の接待、いいかえれば脳への処方箋だというわけです。

そこで著者は具体的な「接待」の方法として、まずは夜10時までに寝てみることを勧めています。普段、夜中の1時ごろに眠っている人が夜9時台に眠る習慣を身につけることができれば、昼間の時間に活気を取り戻すことができるというのです。

真夜中になってから寝るという、脳に染みついたクセをとっていくことが大切だということ。

夜10時までに眠れるようになったら、朝6時までに起きて外に出て、朝日を浴びることが大切。さらに夕方は夕日、夜は月や星を見て、一日の終わりと始まりのメリハリ体験を毎日続けることが重要。

このような一日の生活習慣は、人の体内時計の機能や生体リズム調整に影響を与えるのだそうです。

9時〜6時の「早寝早起き」が理想ですが、それが無理でも、一週間に50時間の睡眠は確保してほしいと著者は言います。

月曜日から土曜日まで毎日7時間、日曜日には少し余計に8時間。これで50時間なので、この数字をもとにして、できれば「睡眠貯金」を考えてほしいというのです。

ウィークデイにどうしても十分な睡眠時間を確保できなかったのなら、大切なのは、休日にマイナスを埋めること。一週間内で差し引きゼロに戻すようにすれば、極端な睡眠障害は防ぐことができるという考え方です。

なお著者は、外来で訪れる人に、一週間単位で睡眠時間を記入してもらっているのだそうです。その結果として気づくのは、週の中に「2時間半」とか「3時間半」とか記入された日があること。

そのように記述する人は、たいてい疲れ切った表情をしているといいます。

ある男性のケースでは、帰宅後、子どもが寝たあとに、会社の仕事をするのがクセになっていました。

深夜の二時まで仕事、朝六時起床ということなので、毎日の睡眠時間は四時間。どこかでうたた寝する時間をつくってカバーしているといいますが、それでも不足しています。(91ページより)

著者によれば、そういう人の問題点は、睡眠時間の長短より「脳がスッキリしない時間」が長いことだそう。熟睡できず半覚醒のまま起きている状態なので、疲労感が増してしまうというわけです。

それは、ノンレム睡眠のステージが浅く短いため、中途半端に脳が働いて、活動をしているから。

そういう状態に陥ると、客観的な思考が停止してしまうことになるといいます。いま体を動かしていること以外のことはほぼ考えられず、大局的な考えを持てなくなってしまうということ。

目先のことしか頭に入らず、「これから先」のことなど考えようともしなくなっていくのです。

著者自身も救急医療の現場にいたとき、そういう状態になってしまった経験があるのだそうです。しかし、その現場を離れられたことを機会に、思い切って早寝早起きに切り替えたのだとか。

その結果、覚醒している時間にやるべきことが明確になり、頭もスッキリと冴えてきたそうです。(90ページより)

悩みを翌日に持ち越さない

著者はなにか問題を解決しなければならない場合、就寝前の5分か10分間に「きょうの出来事」を整理し、問題点をひとつに絞り、「これが明日までに解決したいこと」だと脳に記憶させてから寝るようにしているのだそうです。

ひとつに絞って寝ることで、あれこれと考えなくなるということ。

ただし、一日の出来事を振り返って整理する際には、できるだけいやな感情を持ち込まず、事実だけを確認するようにすることが大切。楽観的に考えるようにすると、嫌な感情は払拭されていくものだからです。

すると意外にも起きる前の夢の中でひらめいて解決する場合もあります。朝、起床してもう一度、その問題を考え直し、出勤途上の電車の中で解決策がひらめくことがあるのです。

このような形で、問題を一つずつ解決していくことが大事です。すると脳が「進歩」を感じるようになり、これが脳をリフレッシュさせます。(96ページより)

問題を解決できないまま眠りにつくと、思考と感情が堂々巡りをし、負のサイクルに入り込んでしまい、ますますストレスが重くなっていくもの。

しかし、いったんリセットすれば、インスピレーションが湧くこともあり、寝ている最中に整理ができ、朝起きたら解決しているということがかなりあるというのです。

そんな、ちょっとした積み重ねが、脳内リズムを崩さないための強力な武器になるということです。(95ページより)




他にも「呼吸」「マインドフルネス」によって脳を接待する方法が紹介されているほか、脳内リズムを整えるためのさまざまな知見が紹介されています。

「やる気が出ない」「ミスばかりする」などの理由で悩んでいる方には、特に役立ちそうな内容です。


Photo: 印南敦史

印南敦史

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