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マキシマムザ亮君に学ぶ、「モノが売れない時代」に必要なマーケティング・センス

マキシマムザ亮君に学ぶ、「モノが売れない時代」に必要なマーケティング・センス

「音楽が売れない時代」だと言われるようになって、もうかなりの年月が経ちます。

なにしろ、音楽を聴くためのメディアとしてSpotifyやApple Musicなどの課金制ストリーミングサービスが当然のものとなり、さらにいえば、お金を払わなくてもYouTubeで聴ける時代です。かつては主要メディアであったCDを購入する人が減ったとしても、まったく不思議な話ではないわけです。

しかし個人的には、そうした時代の動きよりそのものよりも、音楽業界のあり方自体に疑問を感じていました。もちろん、すべての人がそうだと決めつける気はありません。

しかしそれでも、多くの音楽業界人が「音楽が売れない時代」を前にしながらも、いまだ有効な打開策を見つけ出せていないように思えるからです。

CDが売れないのであれば、なによりも必要なのは「では、どうしたらいいのか?」ということについてとことん考え抜くことであるはず。ところが現実的に、そうしている人は決して多くないように感じるのです。

そんななか、昨年11月下旬にちょっとした“事件”が起こりました。ロック・バンドのマキシマム ザ ホルモン(以下:ホルモン)が、2015年11月発売の『デカ対デカ』以来の新作『これからの麺カタコッテリの話をしよう』をリリースしたのです。

なぜそれが事件なのかといえば、この作品には今後の音楽業界の進むべき方向性が反映されているから。果たしてどういうことなのか、きょうはそのことについてご説明したいと思います。

マキシマム ザ ホルモンの新作は「書籍」扱い

ここまで読んでいただいた時点で、「あれ、これって書評じゃないの?」とお感じになった方もいらっしゃることでしょう。そのとおりで、間違いなくここは書評のページです。では、なぜそこにロック・バンドであるホルモンの新作が登場するのか? ポイントは、そこにあります。

というのもこの作品、「CD(4曲+ボーナストラック)+漫画」で構成される“書籍”として発売されたのです。ちなみに漫画は、『コロコロアニキ』(小学館)で連載されていた「マキシマムザ亮君の必殺! アウトサイダー広告代理人」と、その未発表の最終話を先行掲載したもの。

しかも、

①ホルモン復活後に開催されるライブチケット購入権利が当たる「先行リザーブチケット抽選権」

②「グッズがすぐに売り切れて買えない」という声に応えるべくオープンした「ONLINE SHOPプラチナVIPラウンジ入場チケット」

③クーポン取扱店ステッカーのある飲食店で特別サービスが受けられる「腹ペコえこひいきグルメクーポン」

④ホルモンのファンであることをカミングアウトできる「腹ペコ宣言ステッカー」

というユニークな4大特典つき。至れり尽くせりなので、個人的には子どものころに慣れ親しんでいた小学生向け学習雑誌を思い出しました。たくさん付録がついたああいう雑誌を手にしたときのワクワク感が、蘇ってきたように思えたのです。

それはともかくとしても、漫画とCDを抱き合わせにして書籍として発売したこと自体が「ありえない」ことではあります。

しかし前作『デカ対デカ』からして、DVD3枚、ブルーレイディスク、CDという変則的な構成だったのです。それどころかゲームをクリアしてパスワードを発見しなければ映像コンテンツを見ることができないため、文字どおりの賛否両論を巻き起こした経緯があります。

それが「ホルモンらしさ」だったわけですが、つまりは今回も、それらと同じように強烈なオリジナリティを発揮しているわけです。

「CDを買わなければならない」仕掛け

ホルモンはこれまで、ライヴの際に「真夏にダウンジャケット着用で生ニンニクを食べてくる」「フルフェイスのヘルメットを着用してくる」というような観覧条件をつけるなど、思いもつかないようなアイデアを駆使してきました。

そのことを思い出せば、本作を読み解くことができるのではないでしょうか? いわばここにも、持ち前の個性が明確に反映されているわけです。

そして、そんなアプローチを確認したうえで注目すべきは、公式リリースに以下のような記述がある点。今回の新作は、移籍した大手メジャーレーベル「ワーナーミュージック・ジャパン」からのリリースなのですが、“メジャー・デビュー”に際してはっきりとした意思表明をしているのです

※マキシマム ザ ホルモンの楽曲を定額制音楽配信サービスで配信する予定はございません。

いうまでもなくこれは、「CD以外でホルモンの音楽を売ることはない」というメッセージです。CDについた期間限定の「プレイパスコード」で専用サイトにアクセスすれば音源のダウンロードが可能になり、スマホで聴くこともできますが、それもCDを買わなければ手にできない特典。

そんなところに明らかなとおり、ここには「CDを買わなければならない仕掛け」が随所に反映されているのです。その徹底ぶりには驚くべきものがあり、たとえばそのひとつが、同時限定発売された『これからの麺カタコッテリの話をしよう ジェネリック盤』。

これは「漫画なんかいらないからCDだけ売ってくれ」という人の要望に応えたもので、収録曲、ジャケット、ブックレット、歌詞カードは通常盤の内容と同じ。そして上記の「4大特典」もなし。

にもかかわらず、通常盤2292円(本体+税 価格の読み方は“痛風苦痛”)に対し、CDだけのこちらは3030円(本体+税)。

たくさんの特典がついた通常盤より高くなっていますが、そこには「こんな無駄なもの買うなよ」とでもいうようなユーモアが込められているわけです(結局は完売し、レア・アイテム化してしまったのですが)。

いずれにしても本作は、「CDが売れない時代にCDを売るにはどうしたらいいのか?」という課題に対するホルモンからの(=亮君からの)回答だということになります。

クリエイティブ・ディレクターとしてのマキシマムザ亮君

なお、ご存知の方も多いと思いますが、こうしたすべてのアイデアは、バンドの全作詞作曲を担当している「歌と6弦と弟担当のマキシマムザ亮君」によるものです。

亮君はCD、グッズのデザイン、ホルモンに関連したすべての企画、楽曲解説、イラストレーション、プロモーション企画、キャッチコピーのライティングに至るまで、ホルモンに関するすべてを手がけているのです。

広告業界の言葉で表現するなら、その役割はクリエイティブ・ディレクターに相当します。それは端的に言えば、商品を売るための緻密な戦略を組み立て、自ら先頭に立って指揮する立場。

当然ながら、頭の回転のよさ、視野の広さ、実行力、統率力など、ビジネスに関するさまざまな要因を身につけていなければできることではありません。

いわば亮君はギタリスト/ヴォーカリストであると同時に、「マキシマム ザ ホルモンのクリエイティブ・ディレクター(CD)」としての役割をも担っているわけです。とはいえ一般的なクリエイティブ・ディレクターとは異なる部分も当然あります。

まずは(当然ですが)、そのアイデアをホルモンというバンドにのみ注いでいること。そして、(結果的にそれが商業的成功に結びついているとしても)“ホルモンまわりの仕掛けづくりと実行”をとことん楽しんでいるということ。

ビジネスと捉えているのではなく、目の前にある大好きなおもちゃから、最大限の可能性を引き出そうとしているような自由度があるわけです。

このことについては、本作の漫画パートである『マキシマムザ亮君の 必殺! アウトサイダー広告代理人』巻末に掲載された解説「マキシマムザ亮君はCD」である」中で、元電通のコピーライター(自称“青年失業家”)田中泰延氏も指摘しています。

亮君は確かに、CDとしての才能を持っている。だが商売が上手だからそうしているのではない。好きだからそうしているのである。(中略)亮君は、ただ、自分がおもしろいこと、それを追求するために、次々と何かを創り続けているのである。

今回この作品を取り上げたいと思ったのも、こういう理由があったからです。しかも、ここまで「ありえない」作品であるにもかかわらず、結果的にはオリコン「書籍コミックエッセイランキング」で3週連続1位17万枚突破という実績を生み出したのだとか。

これは業界に蔓延する「前例がないから無理」という消極的なスタンスを一蹴する痛快なカウンターパンチであり、既成概念を打破したところに可能性があることを証明したトピックであるとも言えるでしょう。

ビジネスパーソンも応用できる亮君の発想力、自由度、行動力

「音楽が売れない時代」にあえてメジャー・デビューする以上、少なくとも一般的な考え方からすれば、大きなリスクが伴います。バンドの場合は特に、(金銭的な理由などから)メジャー・デビューしたことで解散に追い込まれるというケースも少なくないのですから。

早い話が「メジャー・デビューすれば安泰」という時代はとっくに過ぎ去っており、あえて火のなかに飛び込んでいくようなものだといっても過言ではないのです。繰り返しますが、“一般的”には。

別な表現を用いるなら、亮君は“一般的”ではない発想とアイデアによって、リスクのほうが多い状況と向き合っているのです。そこでの勝因は、いうまでもなく自由な発想力。楽しんでしまおうという自由度。そして、“ありえないこと”を本当にやってしまう行動力です。

でも、それは「マキシマム ザ ホルモンというロック・バンドだからできること」ではないと思います。ホルモンがそうしているのと同じように、ビジネスの現場においても発想力や自由度、行動力を発揮することはできるはずだということ。




だからこそ本作を手にとって細部をチェックし(それだけでも楽しめます)、CDを聴きながら漫画を読んでみていただきたいと思います。

その結果、もしかしたら自身のビジネスに応用できるアイデアを導き出せるかもしれません。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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