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10周年特集ーPAST ◀▶FUTURE

これからのビジネスにはアート的な視点が必要/クリエイティブディレクター 佐藤可士和さん

これからのビジネスにはアート的な視点が必要/クリエイティブディレクター 佐藤可士和さん
Photo: 柳原久子

無駄をそぎ落としたアートディレクションの数々、ミリ単位でそろえられていると思われるほどのオフィスインテリア、さらに整理術の著書も手掛けるなど、シンプルで明快なデザインのイメージがある佐藤可士和さん。ところが近頃、「コントロールされない」「一点もの」といったアートへの回帰も意識しているのだといいます。

時代に応じて、表現の方法を変化させていく佐藤さんは、スマイルズが手掛ける「The Chain Museum」とのコラボレーションも計画している。そんな佐藤さんのアートとのかかわり方を伺いました。

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佐藤可士和(さとう・かしわ)さん

1965年東京都生まれ。多摩美術大学卒業。株式会社博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。ブランドアーキテクトとして、グローバル企業のロゴのデザインや空間デザインを含めたブランド戦略など、数々のプロジェクトを手掛ける。近年は文化庁・文化交流使として日本の優れた文化、伝統、ブランド、技術などを広く海外に発信することにも注力している。『佐藤可士和の超整理術』『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』ほか著書多数。慶應義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。

アートやデザインに対する原体験は、絵本のミッフィー

佐藤さんのアートへの原体験は、絵本だったそう。

「子どものころ読んだ、ミッフィーの絵本です。当時は『うさこちゃんと○○』といったタイトルでした。絵本はよく読んでいたのですが、ミッフィーだけは明らかに他の絵本と違う。判型も正方形でかっこいい。本を開くと、左側に文字、右側にシンプルな絵が描かれている。色の数もとても少ないですよね。ずっと眺めているうちに、空の青と、服の青が同じなのにちゃんと違うレイヤーに見えてくるとか、一面オレンジ色の場所なんてこの世にないけれどあるように思えるとか、子どもながらに抽象的な空間を感じていました

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幼心にも、ミッフィーの絵本を「これは、他とぜんぜん違う!」と感じたという佐藤さん
Photo: 柳原久子

その話を聞けば多くの人が、佐藤さんの現在のデザインに通ずるものがあると感じることでしょう。ミッフィーの絵本に魅了されるとともに、「描く」ことに没頭する日々だったといいます。床やテーブル、どこにでも絵を描き始める佐藤さんに「待って!待って!」と母が紙を差し出すのが常でした。

「後から聞いたのですが、僕は白い紙を『まって』という名前のものだと思っていたらしいです(笑)」

建築家の父が使っていた製図板の上に乗り建築図面に絵を描いてしまったこともあったのだとか。気持ちの赴くままに描き続けた結果、ほめられることが多くなり、幼稚園の年長くらいから「自分は絵が上手く描ける」という自覚を持ち始めます。少年時代はひとりで大きな公園に行って写生をし、架空のものをイメージして描き、漫画も描く――そんな日々でした。

イノベーティブでコンセプチュアルな芸術を知る

音楽やファッションの分野でパンクを好んでいた高校生のころ、美大を目指そうと心に決めます。当時、美術予備校のカフェで友人に見せられたのが、マルセル・デュシャンの作品でした。「デュシャン、知らないの?」と言われ初めて目にしたのは、既製品をそのまま、あるいはそれに少しだけ手を加えた「レディ・メイド」の作品群。

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マルセル・デュシャン『泉』(1917)
Image: Getty Images

「それまでは、Tシャツやアルバムのジャケットなど、アートというよりはデザインによく触れていました。アートとデザインの違いも意識していなかった。でも、デュシャンを知って初めてコンセプチュアルなアートを知った。そこで、好きだったパンクに通ずる、イノベーティブなものを感じたんです」

これから本格的に絵を勉強しようと思っているときに、すでに描くことをやめてしまった芸術家を知る――なかなかに衝撃的な出来事だったものの、絵を描くことに限らない「アート」を実感した瞬間だったのです。

イノベーティブなものがアートだと思う

大学時代にヨーロッパとニューヨークを訪れ、それと比較して日本にはアートのマーケットがないと実感します。そのため、リアリティのある広告業界で表現をしてみたいと考えました。「まるで社会をキャンバスにしたアート活動だなと思って」と佐藤さんは言います。

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「アートが表現している時代の視点は、仕事そのものに直結する」と佐藤さん
Photo: 柳原久子

僕にとってアートは、新しい視点をくれるもの。大げさに言えば『これまでに人類がしたことのない見方』を表出させているもので、そのフィールドが芸術ということ。もっと大きくとらえると、クリエイティブですよね。数学や音楽、文学、経済、それぞれの世界でイノベーティブなことをしている人はクリエイターだと考えています。アートはデザインともよく似ていますが、デザインの場合は例えば……『コップ』という『機能』を成立させなくてはならない。機能を取り払い、より純化したものがアートだと思っています」

「新しい視点をくれるもの」という言葉は、同じテーマでインタビューをしたスマイルズの遠山さんと同じ。文脈は違っても、アートというものを本質的には同じようにとらえているのかもしれません。佐藤さんにとってはミッフィーであり、セックスピストルズであり、デュシャンだったのです。

これからのビジネスには、アートによる新たな視点が必要

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Photo: 柳原久子

近年、ビジネスにアートやデザイン的な思考が必要だと言われることが多くあります。特に経営者には「デザイン思考」や「クリエイティビティ」などが求められるもの。

「特に日本は、戦後にモノが足りない時代を経て、これまではとにかく必要なもの、生活を便利にしてくれるものを順番に作ればよかった。でも今はモノがむしろ余っていて、必要なものは足りています。その結果、ニーズがとても複雑化していく。これまでと違うから、違う視点が必要なんです」

そのためのヒントをくれるのがアートだと、佐藤さんは言います。アートに触れた経験がなくても、美術館などに何度も足を運んでみるといいそう。

たくさん見ると、考えますよね。『意味が分かんない』とか『どうしてこんなものが高いんだろう』とか。疑問が生まれたら調べたくなります。多くの人が『いい』というルールや、時代背景などもわかってくる。例えば、印象派は優しい雰囲気に見えるかもしれませんが、写実的な絵ばかりだった当時にしてみたら『超過激』だったわけですから」

アートを通じて時代に思いをはせ、現代に置き換えれば、新しいことをスタートする際のイメージがわきます。どんな風に時代が変わってきたのか、文字以外で感じ取れるのがアートなのです。

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佐藤さんは「何か新しいことを見ようとしていないと、ビジネスはうまくいかない」と語る
Photo: 柳原久子

時代を見据え、一点ものへと回帰する

もともと絵を描くことが好きだったが、広告を生業にするようになり「マス文脈において、一点ものは表現としては使いにくい」という印象を持っていたそう。ところがここへきて、時代が変わってきたといいます。

「本当の一点ものはなかなかメディアに載らないから、使いにくいと思っていました。ところが、今は何でも拡散できる時代。一点ものの作品もメディアを通して拡散が可能になったんです」

そんな風に思っていたころに打診されたのが、有田焼の400周年を記念したプロジェクト。

緻密な図柄が特徴の有田焼に、あえてダイナミックな絵付けをすることを提案します。佐賀県の有田町へ10回以上訪れ何度もテストをしながら、それぞれが一点ものとなる13枚の皿を作り上げました。

さらには、代表を務めるクリエイティブスタジオ「SAMURAI」では、3年ほど前から建築家を採用し、空間デザインを社内で対応できる体制を整えていました。アートを含めた空間づくりを手がけるようになり、佐藤さん自身がアートへ回帰する思いが高まっていったのでした。

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サムライのエントランスには佐藤さんが描いたアートが飾られている
Photo: 柳原久子

重なり合う条件に後押しされるように、最近200坪ほどの大きなアトリエを借ります。本格的にアートに取り組もうと思うと、オフィスでダイナミックなドローイングをするわけにはいかないからです。

「ちょうどそのころ、妻の悦子とスマイルズの遠山正道さんがMASHING UPのイベントで対談をして、『The Chain Museum』の構想を聞いたんです。借りたばかりのアトリエを使っておもしろいことができそうだと直感しました。まだ具体的には決まっていませんが、未発表作品の発表や、ライブペインティングなども考えています」

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有田焼の仕事を始めるときにも、「誰もやっていないことは何だろう」と考えたという
Photo: 柳原久子

遠山さんの新たなアートへの構想と、佐藤さんのアートへの回帰。そんな二人がクロスする「The Chain Museum」で何が起こるのでしょうか。また、佐藤さんのこれからの作品にどんなものが生まれるのでしょうか。

それはきっと、これまでになかった新しい視点を見せてくれるものに違いありません。

気になる質問にも答えてもらいました

Q. 実践している”ライフハック”があればお教えください。

オンとオフに差を付けないようにしています。区切りを付けない方が、時間を短縮できると考えています。「今日は仕事のことは考えない」と区切ってしまうと効率が悪くて……。

例えば、パーソナルトレーナーに日常でできる体幹のメンテナンスを教えてもらいました。エレベーターに乗っているときや、信号待ちをしているときに、横隔膜を下げて胸筋を絞めることで、空いている時間もトレーニングにできるんです。

Q. 10年後にどんな暮らし方・働き方をしていると思いますか?

10年後も、楽しくて、世の中の役に立つような活動をしていきたいですね。クライアントや世の中に還元していきたい。無駄なことは嫌いなので(笑)、やるなら最大のパフォーマンスを出さないともったいないと思うんです。これから社会に出る人たちにも、できるだけ楽しく働いてほしいと思っています。好きなことができていれば、自ずとパフォーマンスも上がっていくと思います。

スマイルズの遠山さんが進めるプロジェクト「The Chain Museum」にSAMURAIのクリエイティブディレクター・佐藤可士和さんがジョイン。そのきっかけとなったのが、遠山さんとSAMURAIのマネージャー・佐藤悦子さんが、2018年2月に開催されたイベント「MASHING UP」で対談したことでした。

その「MASHING UP」の第2回が2018年11月29日30日にトランクホテルで行われます。

佐藤悦子さんは、「日本発ブランドを作りあげるためのビジョン、そして戦略」というセッションで、星野リゾート代表 星野佳路さんと登壇します。開催は11月30日(金)14:35-15:15 @TRUNK(HOTEL) 1F ONDEN。

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※ライフハッカー特別割引【2日間チケット18,000円→14,000円】あり。プロモコード【MU1811lifehacker】をご入力ください。

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Photo: 柳原久子

Image: Getty Images

Source: The Chain Museum

取材・文/栃尾江美

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