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「年上の部下」に指示を出す際の基本スタンスは、「自分は上であり、自分は下である」ということ

「年上の部下」に指示を出す際の基本スタンスは、「自分は上であり、自分は下である」ということ

私は現在、公開セミナーや企業研修の講師をやっています。 いま最も多いテーマは部下指導など、マネジメントに関するものです。 講師生活20年の中で、3万人以上のビジネスパーソンとご一緒してきました。

その中で、5年ほど前から気付いたことがあります。受講者からの質問で「年上の部下にどう対処したらよいでしょう?」というものが急に増えたのです。 そして最近は「年上の部下をもっている人は手を挙げてください」と聞くと、1/3 ぐらいの受講者が手を挙げます。

このような経験から、年上の部下の指導が大きなテーマになっていることを肌で感じています。(「はじめに なぜ『年上の部下』は難しいのか?」より)

「年上の部下」をもったら読む本』(濱田秀彦著、きずな出版)の冒頭に書かれたこの文章を目にして共感する方、つまり、「年上の部下」の指導で悩む方は決して少なくないはずです。

しかもこれからの時代は、役職定年になり、一般社員に戻る高齢の社員が増えていくことになります。つまり、いまよりも確実に、年上の部下が増えていくということ。

したがって今後は、管理職やリーダー層にとって、「年上の部下をどう動かすか」がマネジメントの最重要課題になっていくわけです。

とはいえ現実問題として、年上の部下を指導するのはとても難しいことです。当然のことながら彼らには相応のプライドがあるため、年下の上司に命令されるような状況に置かれれば、違和感を持つのは当然だからです。

また、「これまで会社のために一生懸命やってきた。能力が下がったわけでもないのに役職を奪われ、収入も下がった。やっていられない」というような思いからくるモチベーションの低さも問題。

部下指導はただでさえ難しいのに、それが年上の部下だった場合にはますます難しいことが増えていくということです。しかし、年上であろうが部下は部下。

職場の貴重な戦力であることは間違いないので、管理職やリーダーとして活かしていくことが必要。

そこで著者は、年上の部下を活かすためのカギになる3つのコンセプトを紹介しています。

(1)自分は管理職・リーダーという役割を遂行する

(2)相手は人生の先輩であるという敬意をもって接する

(3)相手に問いかけるという手法(コーチング)を使う

(「はじめに なぜ『年上の部下』は難しいのか?」より)

これらは、本書全体を通底するものでもあるそうです。そこで、ここではこの3つをどう具体的に進めていくべきか、その方法を明らかにしているわけです。

第1章「『年上の部下』に指示するときには、どうすればいいか?」のなかから、いくつかの要点を抜き出してみましょう。

一点だけ意思を込め、あとは任せる

年上の部下を持った管理職やリーダーが最初に戸惑うのは、「指示の出し方」といことになるでしょう。部下とはいえ相手は年齢的に上なのですから、やりにくくて当然。しかし、指示が不適切だと、仕事はうまく進まなくなります。

では、なにを意識すべきなのでしょうか?

この点について著者は、「年上の部下に指示を出す際の基本スタンスは『自分は上であり、自分は下である』」ということだと主張しています。

「自分は上である」の意味は“自分は組織図で上のポジションであり、指示を出す役割を担っている”ということ。自分は相手より偉いという意味ではなく、役割が違うということです。

そして「自分は下である」の意味は“自分は年下である”という事実を素直に認めるということ。人生の先輩である相手に、敬意を持って接する必要があるわけです。

なお指示に関して、年下の上司がやってしまいがちな典型的な誤りが2つあるといいます。ひとつは、「遠慮しすぎてあいまいな指示を出してしまう」こと。

本来、指示とは「なにかをするように言いつけること」。ところが相手が年上だと、上からの物言いはしにくい。そう考えてしまうのは仕方がないけれども、それが「あいまいさ」につながってしまうというのです。

一方、年上の部下には、「年下の上司の指示がはっきりしなくて動きにくい」という不満があるもの。やらなくてはいけないものなのか、できればやってほしいという程度のことなのか不明確だということ。

いうまでもなく、これは指示を出す側に「自分は上である」という意識が欠如していることが原因。

年下の上司がやってしまいがちなもうひとつのことは、「自分は上司、なめられてはいけない」と意識しすぎて“上から感”を出してしまうこと。

しかし年上の部下にはプライドがあるので、上から言ってしまうと素直に動いてくれなかったり、反発を招いてしまうわけです。これは、「自分は下である」という意識が足りないことからきているといいます。

では、具体的にどのようにすればよいか。困ったときには原則が頼りになります。 指示の原則は3つあります。 「ゴールを示す」「やり方を示す」「肯定的に示す」です。(19ページより)

ゴールについては、「なんのために(目的)、なにを(対象)、いつまでに(納期)、どのレベルの水準で(要求水準)」やってほしいかを示すことが大切。

たとえば、「来年度の新人受け入れのために、備品発注マニュアルを、来月中に、新人が読みながら独力で実施できるようなレベルでつくる」という指示の仕方がゴールになるわけです。

そして2つめの「やり方を示す」が大きなポイントになるのだとか。やり方を示すとは、言い換えれば「自由にしてよい範囲を示す」ということ。やり方を細かく示してしまうと、自由にしてよい範囲が狭くなります。

それは年上の部下にとって窮屈なことなので、配慮したいところ。とはいっても、なんでも自由にしてしまうと、期待したのと違うものができあがってしまうこともあり得ます。そこでやりたいのが「ここだけは」という一点に絞って自分の意思を込めること。

「ひとつだけお願いがあります。部門で決めたマニュアルフォーマットを使って作成してください。内容や表現方法はすべてお任せします」というように指示すればいいわけです。

3つめの原則「肯定的に示す」は、「○○しないように」ではなく、「○○するように」と表現すること。

「新入社員の研修で使いたいので、遅れないように完成させてください」 ではなく、 「新入社員の研修で使いたいので、来月中に完成させてください」 という表現にすべきだという 考え方。

「○○しないように」という否定的な表現だと、制約のニュアンスが強くなってしまうもの。それもまた、ベテランの年上上司に窮屈な印象を与えてしまうわけです。

そうならないよう、年上の部下に対する指示では、

「遅れない」→「間に合わせて」

「予算オーバーしないように」→「予算内で」

「誤りのないように」→「精度を高く」

(21ページより)

というように、肯定的な表現を活用することが大切。(16ページより)

「指示」であることが明確になるセリフを使う

上司としては、きちんと指示したつもりのことが、年上の部下からすると「指示ではなく単なる話し合いだと思った」となったしまう場合は、言い方に問題があることが多いとか。たとえば、こんな感じです。

上司「お忙しいところすみませんが、来季の目標に関することでお話が…」

部下「なんでしょう」

上司「先日提出してくれた目標なんですが、できればもう少し具体的にしてもらえないでしょうか?」

部下「もともと私の仕事は、成果を数字で表すのは難しいんですよ」

上司「それはわかるのですが、ちょっと考えてもらえませんか?」

部下「はぁ」 (28ページより)

上司としては目標を具体的なものにする修正をしたつもりでも、部下は「意見を聞かれただけで、目標を修正しろと指示されたわけではない」と考えてしまう可能性があるということ。

そして、この会話で誤解のもとになっているのが「できれば」という言葉と、「もらえないでしょうか?」「考えさせてもらえませんか?」という疑問系の言い方。

「上から」にならないよう、ていねいにいうことは大切ですが、こういう言い方をしてしまうと意図がきちんと伝わらないわけです。

「できれば」がよくないのは、「できなければやらなくてよい」と取られてしまう恐れがあるから。また「○○してもらえませんか」という表現は、それを相手に投げかける以上、最後はこちらが確認して終わるということが必要になります。

話の「詰め」をきちんとすべきだということ。そこで、このように変えてみるべき。

上司「来季の目標に関することでお話があります」

部下「なんでしょう」

上司「先日提出してくれた目標を、もう少し具体的にしていただきたいのですが」

部下「もともと私の仕事は、成果を数字で表すのは難しいんですよ」

上司「それはわかります。ただ、今季は具体的な目標に向けて、具体的な行動をしていくチームにしていきたいと考えています。そこで○○さん(年上の部下)だけでなく、他のメンバーにも目標を具体的にするよう頼んでいます」

部下「はぁ」

上司「今週中に目標の再提出をお願いします。目標を数字で表せなければ、こういう状況を実現するという表現でも構いません。何曜日に出していただけそうですか」

部下「じゃ、金曜に提出します」 (30ページより)

このように「できれば」をなくすことで、「できればやらなくてよい」という誤解を招くことがなくなり、「○○して欲しいのですが」という表現にしたことで、以降もはっきり伝わるようになります。

また、「何曜日に出してもらえますか」という詰め方もポイント。年配の部下のなかには「はぁ」という、イエス・ノーのはっきりしない言い方をする人もいるので、「よろしいでしょうか」という詰め方だと、「はぁ」と言われてしまう可能性があるというのです。(28ページより)




ここからもわかるとおり、本書の内容はとても具体的で応用しやすいことばかり。もしかしたらそれは、かつて年上の部下を多く持って苦労したという、著者自身の経験がベースになっているからなのかもしれません。

そういう意味でも、年上部下との関係性に悩む方にとっては必読の書だと言えそうです。

Photo: 印南敦史

印南敦史

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