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10周年特集ーPAST ◀▶FUTURE

温暖化や人手不足で野菜の未来はどうなるのか? 専門家に聞いてみた

温暖化や人手不足で野菜の未来はどうなるのか? 専門家に聞いてみた
Image: RachenArt/shutterstock

最近、野菜を食べていますか?

厚生労働省「国民健康・栄養調査(2017年)」によると、野菜の摂取量は1日の目標値350gに対して平均値が約290g。特に30代の男性(約257g)、20代の女性(約218g)が最も少ないそうです。

また、異常気象による野菜価格の高騰や農業従事者の減少や高齢化など、野菜を取り巻く環境は多くの課題を抱えています。

では、食べる量が減り、生産する人が減るなかで、肉や魚とともに食生活に欠かせない野菜の未来は、私たちの食卓はこれからどうなるのか? 今年で創業105年の歴史を持ち、 野菜や花の品種開発・種苗の販売を世界的に手がける「サカタのタネ」の担当者に聞いてみました。

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左:本田秀逸(ほんだしゅういつ)さん。株式会社サカタのタネ 常務取締役。日本国内の営業全般を管掌しており生産や趣味の野菜づくりにも詳しい。右:清水俊英(しみずとしひで)さん。株式会社サカタのタネ 広報宣伝部長。日々変わっていく野菜や花のトレンドを注視して情報を発信。1級造園施工管理技士やグリーンアドバイザーの資格を持つ。
Photo: 香川博人

課題を解決する野菜の品種開発に必要なことは?

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左:温暖化の課題解決も視野に入れて品種開発されたトマト『麗月(れいげつ)』。右:サラダとして生食で味わえるカボチャ『コリンキー』。
Photo: サカタのタネ

── 気候や環境、食生活の変化に対応するために、どのような取り組みをしているんですか?

本田さん:世界的な温暖化や人口の増加、日本の超高齢化社会など、環境や社会は大きく変化しています。ただ、健康に役立つ栄養価の高い野菜を安心して食べたいという消費者ニーズと、安定して大量に生産できる安全な品種を望む生産者のニーズは、これまでも、これからも変わりません。

そして、当社では気候変動に対応した生産性の高い野菜の品種開発はもちろん、多様なライフスタイルに合わせて新しい市場をつくり出す品種の開発も行っています。

清水さん:具体的には、地球温暖化の課題を解決するために、高温の条件下でも安定した生育と高品質の果実が収穫できるトマト『 麗月 』。高齢化や担い手不足の生産者でも、収穫・調製・袋詰めなどの作業効率がよく、温度変化の影響を受けにくいホウレンソウ『ドンドン』シリーズ。皮ごと生で食べられる、これまでにないカボチャ『コリンキー』などです。

── ただ、1つの新しい品種が消費者の手元に届くまで、10年の研究開発が必要と言われていますが、10年後をどのように予見しているんですか?

本田さん:10年後を見据えた育種は、複数の選択肢を設定して行っています。1つの目的や方向に偏ってしまうと、10年の月日が無駄になってしまいますからね。ただ、選択肢と言っても、突飛なことをするわけではなく、極端な違いはありません。

たとえば、トマトの場合、サイズや色、甘みや酸味などの味、リコピンなどの栄養素を、今までのものと変える育種をしたり、新しく発生したトマトの病気に対する抵抗性が高く、農薬の使用量を減らせる品種を研究してみよう、などといったスタイルです。

清水さん:当社は社名の通り、種や苗を世界中に販売しているので、多様な環境、気候風土に適応して安定生産できる品種を開発する必要があります。そのため、 国内外の研究拠点で時間をかけて品種開発を行っていますが、新しい品種ができても、その種子を安定的に生産することも同じように大切で、これにも時間を要します。

本田さん:また、10年以上に及ぶ品種開発で生まれた品種が、私たちの意図とは違った意味でヒットするということもあります。たとえば、先ほど話したカボチャ『コリンキー』は、黄色の野菜が少ないからつくってみようと品種開発したのですが、結果的には、 「調理の手間がかからず、生食でおいしい!」と、 最近の食生活のニーズにマッチして人気となりました。

── 料理や食卓の彩りで考えたら、違う意味で人気の野菜になったわけですね。では次に、そうした食生活や食文化の消費者ニーズの変化についてお聞きしたいと思います。

調理や孤食のニーズにいかに応えるかがカギ

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左上:ミニ白菜『タイニーシュシュ』、右上:ミニカボチャ『プッチィーニ』、左下:ミニチンゲンサイ『シャオパオ』、右下:ミニ大根『あやめっ娘』。
Photo: サカタのタネ

── 前述の通り、野菜の摂取量不足は相変わらずのようですが、食生活や嗜好の変化について、どのように感じていますか?

本田さん:最近では、野菜の代わりに野菜ジュースや栄養補助食品を摂る場合があります。また、袋を開けたらサラダになるカット野菜が好まれるなど、手間をかけない傾向はこれからも高まっていくと思っています。

一方で、簡単レシピを紹介するサイトやアプリが人気を集めているように、調理して食べる楽しみについての関心も高くなっています。

そうした食文化や栄養に対する関心の変化を受けて、私たちも機能性の高い野菜の品種開発が必要だと感じています。

たとえば、野菜不足を補うために特定の栄養成分が高い野菜とか、栄養価はそれほどでなくても料理の彩りとして映える野菜。また、噛む回数や食事時間が減っているので、柔らかくてあまり噛まなくても味わえる野菜など、消費者の嗜好に合わせた品種の育成も課題の1つですね。

また、最近では、皮ごと食べられる種なしブドウが人気ですが、調理の手間が省ける野菜、たとえばミニトマトのように買って・洗って・調理せずに食べられる野菜は、高齢化社会での単身世帯や、共働き世帯の増加を考えると注目される分野だと思います。

清水さん:現在では、通常のものより小さいサイズで成熟する白菜や大根、カボチャ、トマトなど「ミニ野菜」の人気が高くなっています。

カット野菜より日持ちがして手軽に食べられ無駄がないことがその要因で、 スーパーでの取り扱いも増える傾向にあります。

たとえば、これまで白菜は、主に鍋料理や漬物として利用されてきましたが、 『タイニーシュシュ』というミニ野菜としても利用できる白菜は、従来の白菜と違って葉の裏に毛が少なく口当たりが良いため、サラダ感覚で食べられます 。先ほどご紹介した『コリンキー』もそうですが、手間いらずの生食で味わえる野菜は、これからのトレンドの1つと言えます。

本田さん:ミニ野菜は、収穫物がコンパクトなので、収穫までに時間がかからず、省スペースで栽培できるものも多いので、自宅のベランダで栽培している家庭もあり、家庭菜園としての楽しみ方も広がりつつあります。

食べたい野菜は、プチ自給自足でまかなう?

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Image: ChiccoDodiFC/shutterstock

── 自宅で育てるベランダ菜園の話がありましたが、プチ自給自足のような、家庭で野菜を育てるニーズは、これから増えていくのでしょうか?

清水さん:育てて食材として活用するニーズは高まっていて、子どもと一緒に育て、成長を見守り、成熟したら収穫して、新鮮な野菜を味わう。多少、手間がかかる場合もありますが、育てる課程などを家族で楽しめるツールの1つとして活用しているケースもあります。

本田さん:1度収穫すると、それが成功体験となり、ミニ野菜などほかの品種も試してみるという方々が多いようですね。また、仕事をリタイアされた方は、同じ趣味を持つ人たちと育て方の情報交換をしたり、栽培だけでなくコミュニケーションも楽しんでいます。採算性などを物理的に考えると難しい面もありますが、モノ消費からコト消費へと消費傾向が見直される今、体験することに価値を見い出そうとしている皆さんにはおすすめしたいですね。


野菜の今とこれからについてお話を聞きましたが、日本では、甘く酸味が少ないミニトマトの味が一般的となり、大きなトマトにも同じ味を求めるようになるなど、味覚を含めて、野菜の嗜好が変化しているそうです。

ただ、画一的な変化は、ほかとは違う楽しさやおもしろさが失われてしまいます。単身世帯の筆者としては、食べるのに手間いらずでありながらも、選ぶ楽しさが広がるような野菜の品種がこれから誕生することを期待したいと思います。


Photo: サカタのタネ , 香川博人

Image: RachenArt , ChiccoDodiFC/shutterstock

取材協力: サカタのタネ

香川博人

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