特集
カテゴリー
タグ
メディア

10周年特集ーPAST ◀▶FUTURE

多様化する「キャッシュレス決済」は今後どうなっていく? 10年後の「お金」を考える

多様化する「キャッシュレス決済」は今後どうなっていく? 10年後の「お金」を考える

ライフハッカーの10周年記念特集「PAST ←→ FUTURE」では、これからの働き方や暮らし方について、今後の10年を占う記事を展開しています。

今回は、「キャッシュレス決済」を中心とした”お金の話”について、専門家に聞きました。

「キャッシュレス後進国」と言われるほど、世界的に見ても未だ現金が健在の日本ですが、最近では経済産業省がキャッシュレス化促進(PDF)の施策を進めたり、各企業による「QRコード決済」への参入が相次いだりと、少しずつ状況が変化してきているようにも見えます。

ライフハッカー[日本版]でも、キャッシュレスの利便性については繰り返しお伝えしてきました。

より快適なキャッシュレス生活を送るためにも、カードやスマホによる決済に対応する店舗が増えて行くことは、非常にありがたいことです。

一方で、クレジットカードをはじめ、電子マネーやQRコード、はたまた仮想通貨など、さまざまな支払い手段が乱立し、わかりにくくなってきている印象もあります。

そうした状況は、今後改善されて行くのでしょうか? これからの決済やお金はどうなっていくのでしょうか?

日本でキャッシュレス化が進まない理由

cashless-10th-3
Screenshot: キャッシュレス・ビジョン(経済産業省)

他国と比較し、キャッシュレス化が遅れているとされる日本。その理由について、キャッシュレス経済 ―21世紀の貨幣論―の著者で、東洋大学国際経済学科教授の川野祐司(かわのゆうじ)氏は、こう語ります。

「はっきり言えば、サービスを提供する側に問題がある。交通系の電子マネーだけでも10種類ぐらいあるように、規格が統一されておらずわかりづらい。つまり、ユーザー視点に立ってないと言えます。また、店舗側から見れば、電子マネーもクレジットカードも手数料が高く導入コストがかかることも、対応店舗が増えにくい大きな要因です」

IMG_8824_1(1)
東洋大学国際経済学科教授・川野祐司氏
Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

キャッシュレス化の進んでいるスウェーデンでは、「Swish」というスマホ決済システムが普及しています。Swishの利用者は、毎年約 100 万人ずつ増加しており、2017 年 10 月 末の Swish 利用者は 597 万人。スウェーデンの総人口の約 60%が利用しているそうです。

「『Swish』は、スウェーデンの主要銀行6社が共同で運営しています。銀行によってアプリの見た目は微妙に違うけど、中身はすべてSwishなわけです。用意する端末が1つでいいわけですから、お店側としては楽ですよね」

また、キャッシュレスが普及しきらないもう1つの理由として、現金の便利さがあると言います。

「ヨーロッパではATMでお金を下ろすときには、ほぼ確実に手数料を取られるし、預けるときも取られることがある。現金の管理がすごく不便なんです。ところが、日本は銀行がその費用を被ってくれているので、私たちは無料で下ろしたり預けたりすることができるんです」

「サービス提供者側の問題」「現金の便利さ」。この2つがキャッシュレス化が進まない理由だと川野氏は言います。

一方、よく言われる日本人の「現金信仰」がキャッシュレス化のハードルになっているという説については、「それはないと思う」と否定します。

「韓国も、20年ぐらい前までは現金中心で、現金信仰が強いと言われてました。しかし、政府がクレジットカード普及の政策を進めたところ、あっという間にカードが主流になった。なにかのきっかけで、一気に変わるものだと思いますよ」

キャッシュレスシステムを4つに整理

クレジットカードやデビットカード、電子マネーなど、多岐にわたるキャッシュレス決済手段ですが、大別すると4つに分類できると川野氏は言います。

(1)銀行預金

(2)電子マネー

(3)仮想通貨

(4)電子通貨

(1)は銀行預金に紐づいた決済方法で、デビットカードなどがここに分類されます。銀行預金から引き落とされるクレジットカードも、ここに分類できるでしょう。

Swishをはじめとするヨーロッパのモバイルペイメントも当てはまります。

(2)の電子マネーは、SUICAやPASMO、楽天edy、nanacoなど。企業や団体が発行体となり、独自のルールに基づいた電子マネーを構築し、ユーザーは現金やクレジットカードなどで電子マネーを"買う"ことで、決済手段として使用することができます。アジアやアフリカなどで広く普及しています。

さらに、プリペイド(先払い)、ポストペイ(後払い)、デビットの3種類に分類することが可能。

「日本は銀行預金系よりも電子マネーの方が普及していて、これは世界的に見ても珍しい傾向だと思います。買い物をするとポイントがつくとか、ポイントを電子マネーに交換できるとか、さまざまなサービスが存在していて、ある意味ガラパゴス化しているとも言えますね」

(3)の仮想通貨は、まだまだ決済手段としては普及していない印象ですが、主に2つの利用方法が考えられるといいます。

「1つは国際送金。銀行経由での送金に比べ、仮想通貨ならより安い手数料で送金できます。実際、仮想通貨の中ではリップルのように国際送金に使われているものもあります」

リップルは、国際送金に重点を置いて開発されている仮想通貨で、国内外の主要銀行での採用も進んでいます。

日本でも、リップルのブロックチェーン技術を活用した「Money Tap」という個人間送金アプリが、住信SBIネット銀行を中心に今秋より提供開始予定です。

また、もう1つ仮想通貨の利用法として可能性がありそうなのが、「マイクロペイメント」だと言います。

マイクロペイメントとは、1円や10円などの少額の支払いのこと。手数料の高いクレジットカードや電子マネーは少額決済に向いていないため、仮想通貨が注目されています。

さらに、仮想通貨であれば1円未満の支払いも可能だといいます。

「お店で仮想通貨を使って買い物をする機会は、今後もおそらく増えないと思います。しかし、例えばネットゲームやアプリの課金を1秒ごとにできるなど、マイクロペイントとしての使い方は将来的に定着する可能性があるのではないでしょうか。私たちが知らないところで実は仮想通貨が大活躍している、ということは今後起きてくるかもしれませんね」

(4)の電子通貨は、中央銀行が発行するデジタル式の通貨のこと。つまり、紙や金属のお金をすべて廃止して、通貨そのものをデジタル化してしまおうという考え方です。

紙や金属の製造コストや輸入コストがかからなくなり、全体の通貨量や通貨の動きが正確にわかるようになるというメリットがあります。

日本の場合、約1000兆円の預金残高があると言われていますが、実際、それ以外にかなりの金額が"タンス預金"として眠っていると言われます。それが電子通貨であれば、タンス預金の金額でさえもわかるようになると言いますが、実現の可能性はあるのでしょうか。

「スウェーデンなど、いくつかの国で推進する動きがあります。ただ、1日に数百万、数千万件と発生する取引をすべて処理することができないとダメなので、実現のためには技術的なブレイクスルーが必要だと思います」

QRにApple Pay…。多様化する支払い手段

キャッシュレス決済のシステムを4つに分類してみて来ましたが、最近話題のQRコードなど、店舗で買い物をする際の支払い方も多岐にわたっています。

大きくは、カードによるものかスマホによるものに分けられるといいます。

さらに、カードはSuicaやiDなどの非接触型と、クレジットカードのようなカードリーダーを通すものに、スマホはApple PayやGoogle Payなどの非接触型と、QRコードやバーコードを読み込んで決済するものに分けられます。

cashless-10th-qr
QRコード決済は、写真のように店舗側が提示しているQRコードをスマホで読み込むタイプと、スマホの画面にQRコードを表示し、それを店舗側のリーダーで読み取ってもらうタイプがある。
Image: Zapp2Photo/shutterstock

最近では、LINE やソフトバンク・Yahoo!、Amazonなど、さまざまな企業がQR決済事業へ参入しています。

「今後普及していく可能性として、短期的にはQRが一番有望だと思います。なぜかといえば、店舗側の導入コストがかからないから。端末もいらないし、紙1枚貼っとけばいい。ただ、中国では店員が見ていない間にこっそり紙を差し替えるという犯罪も起きているそうですが」

また、LINEやYahoo! などは、店舗側の決済手数料も一定期間無料にするとしており、各社が普及に向けて強力に力を入れ始めているようです。

しかし、さまざまな企業が参入してくると、やはりユーザーにとっては非常にわかり辛くなってきます。その点を懸念し、最近では政府主導でQRコードの規格統一も進められています。

「結局、ユーザー目線に立った戦略を立てられるかが重要。それをいち早くできた企業が、その先行者利益を得て一気に大きくなるのだと思います」

今後進化を期待したい「生体認証」

cashless-10th-3
Image: Monster Ztudio/shutterstock

「さらに、今後注目したいのは『生体認証』ですね。イオンが手のひらの静脈を使った決済サービスの実証実験を9月からスタートするそうです。ただし、静脈認証だけでなく誕生日の4桁も入力しないといけないので、まだ少し面倒ですね」

本人認証の方法というのは、主に3種類に分けられると言います。スマホなど「所有物による認証」、パスワードなど「知識による認証」、そして「生体による認証」です。

「安全性を考えると、少なくともこのうちの2つは確認しなくてはなりません。生体認証であれば、合わせてパスワードも聞かなければならない。この点は、もう少し技術のブレイクスルーを期待したいですね」

たとえば、目と指紋の2つを認証すればOK…そうなれば、買い物の時に財布どころかスマホを持ち歩く必要もなくなりそうです。

また、静脈や指紋などの生体認証とは別に、身体に認証用のマイクロチップを埋め込むという方法(バイオハッキング )もあります。

これもスウェーデンではいち早く流行しており、乗車券や入退室の管理に導入する事例も出てきているそうです。

10年後のお金はどうなっている?

最後に、川野氏に10年後の「お金」について聞きました。

「徐々にバイオハッキングや生体認証が普及していき、40%ぐらいの人はそれで支払うようになっているのではないでしょうか。 まだ30%くらいの人がスマホで支払っていて、あの人遅れているね、なんて言われているかもしれません。現金はまだ残っていて、30%くらいの人は現金派をやめないと意地になっている。そんな状況じゃないでしょうか」

「そのころには、生体データが公的機関にかなり蓄積されてきているでしょう。例えば、医療情報も蓄積されているので、健康診断も自宅に検査用のキットが送れられてきて、それを返送すると、スマホなどのデバイスで診断結果が確認できる…そんな風に自動化されているかもしれません。そのときの支払いは病院に行く必要もなく、キットが送られた段階で口座から、勝手に引き落とされるようになっているでしょう」

「銀行はこれからもどんどん人を減らしていて、ほとんど無人状態になっているのではないでしょうか。融資の審査も自動的にできるようになれば、銀行という会社は存在するけど店舗には誰も人がいない、というバーチャルな存在になっていくでしょう」




現金に加えて複数枚のカードを持ち、パンパンに膨らんだ財布を持ち歩いているという人が、日本ではまだ多数派かもしれません。

生体認証が普及し、"身一つ"で買い物ができるようになればそんなこともなくなるでしょう。

今年の1月には、レジのない無人のコンビニ「Amazon Go」がアメリカのシアトルにオープンしたことで話題になりました。

入り口で個人認証をすれば、手に取った商品が自動でスマホ上のカートに入り、お店を出た時に自動で会計がされるという画期的なお店です。

レジでの会計待ちにイライラさせられたり、財布をなくして途方にくれたりすることも、そう遠くないうちになくなるかもしれません。


Image: Zapp2Photo, Monster Ztudio/shutterstock

Photo: ライフハッカー[日本版]編集部

Source: 経済産業省,キャッシュレス経済 ―21世紀の貨幣論―, SBIホールディングス, 日本経済新聞, 朝日新聞デジタル, ニューズウィーク日本版

開發祐介

swiper-button-prev
swiper-button-next