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世界に注目される日本人の英語教師に聞いた「イノベーティブな英語の学び方」

世界に注目される日本人の英語教師に聞いた「イノベーティブな英語の学び方」

2017年1月25日、世界的な教育企業であるピアソンが「ELT Teacher Award」の受賞者を発表しました。この賞は、イノベーティブな英語教育を実践している英語教師に贈られるもので、世界108カ国から集まった、1300名を超える応募者の中から10名の英語教師が選ばれました。

この狭き門に、日本人の英語教師が選ばれていたのをご存知でしょうか? タクトピアにて教育プログラムの開発責任者を務める、嶋津幸樹さんです。

嶋津さんは学生時代に海外進学塾を創業し、高校生の海外大学進学を支援。自身も、英国のロンドン大学に留学し、応用言語学を学びました。現在は、高校生に向けた海外大学進学プログラムの開発を担当し、日本全国の公立・私立学校と提携して、優れた英語教育を広める活動をしています。

起業家であり、教師であり、研究者でもある。そんな嶋津さんが世界的なアワードに選ばれた経緯、実践されているイノベーティブな英語学習法について詳しくお聞きしました。

嶋津 幸樹(しまづ・こうき)

山梨県甲斐市生まれ。海外進学塾EUGENIC創業者。ロンドン大学の応用言語学修士課程を修了。高校生時代に体験したホームステイでの厳しい体験をバネに独学でIELTS 8.0を獲得し、オックスフォード大学・ロンドン大学(UCL)の修士課程にダブル合格した経歴をもつ。UCL在籍中にケンブリッジ英語教員資格CELTAを取得している。 タクトピアではEUGENIC時代に培った豊富な英語教育の知見と応用言語学の研究成果を活かし、英語教育プログラムの開発全般を担当している。自分のプログラムを非英語圏の子どもたちに余すところなく提供し、英語で堂々と活躍できる世界を実現するのが夢。

日本人は海外に興味をもっていても85%は諦めている

── 現在の活動について教えてください。

嶋津さん: タクトピアという会社で、英語教育プログラムの開発を担当しています。タクトピアは、東京、秋田、イギリス、ベトナム、アメリカに拠点があり、日本の公立校・私立校に教育プログラムを提供したり、 英語の教材開発・出版をしたり、講演会で海外大学や英語学習に関する情報提供をしたりしています。たとえば、情報の中には海外大学の奨学金についての知識も含まれます。日本では世界の大学の認知度が低く、奨学金がもらえる可能性があること自体知らない人も多いですからね。

あとは、海外大学の様子を現地で学んでいる学生と協力して現地から動画を配信してもらったり、海外経験者とのメンターマッチングなども行ったりしています。

日本人は海外に行く意志を一度は持っても、その85%は諦めていると言われていて、情報がない、自信がない、英語力がない、がその理由なんです。タクトピアでは日本人に欠けている、その3つの「ない」部分を埋めていくことをミッションとして掲げています。

── 嶋津さんの英語教育にはどんな特徴がありますか?

嶋津さん:世界各国の高校生と比べると、日本の高校生の英語力は圧倒的に足りていません。この状況を改善するために、その中で「ネイティブマインド」と呼ばれる、動画をベースにした英語教育プログラムを開発し、全国の 学校に提供しています。

「ネイティブマインド」は ネイティブが視聴する英語の動画をベースに、知的興味を喚起するテーマを扱った動画コンテンツです。

探究型の問い」という、海外大学で問われることが多い問いがあるのですが、これはたとえば、「交通渋滞の原因は何でしょう?」といった明確な答えのない問題のことで、自分の意見を表現したり、相手の意見を論破したり、といった力が試される問題です。

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答えがないのでひたすら考えることが要求されるのですが、「ネイティブマインド」はこのような探究型の問いにも答えられるようにするコンテンツです。

英語は段階的に勉強しないほうがいい

── 大学レベルの現地授業をいきなり日本人の高校生に理解させるのは難しいように感じます。何かコツはあるのでしょうか?

嶋津さん:動画を100%理解するのが目的なのではありません。つまり、動画は、海外に留学したときの状況を動画で疑似体験するためのものです。

日本の教科書は段階的な学習を前提に作られています。つまり、be動詞を学習したら、一般動詞、その次は現在形、といったように順を追って学習します。でも、実際に留学したらそういう状況とは違い、わからないことがいっぱいという状況になります。動画の学習はあくまで「わからないことがいっぱいある」という状況を体験してもらうためにあります。

── 動画の内容は後から徐々に理解させていく、ということですか?

嶋津さん:はい。それぞれの動画には、Gist questionという「一番重要なポイント」を聞く質問を用意しています。つまり、細かい所を理解していなくても、一番重要なところだけわかればいい、というスタンスです。繰り返し動画を観ていくうちに、ディテール(詳細な部分)がわかるようになります。

例えば、CNNのニュース動画を高校生に理解してもらう場合、初回はまず観てもらいます。その後、2回目を観る前に背景知識と文字情報をすべて与えます。つまり、動画で語られるテーマと同じテーマを日本語で事前にディスカッションして、動画に出てくる単語も事前に教えてしまいます。こうすることで、最初に観たときよりは理解度が上がります。そして、次は字幕付きで、といったように動画をさまざまな変化を付けて繰り返し観ていきます。動画のスクリプト(台本)を見せて、大事な単語も学習させると、理解度は45〜55%くらいになります。

このようにして、トータルで7回(最初は何の準備もない状態、プログラム中に3回、プログラム外で3回)観るように指導しています。この方法で、動画をベースに自分で学習するスタイルができていきます。

このあたりのメソッドは僕が修士論文で研究していたテーマでもあるのですが、動画はインプットが多くて、巻き戻しも楽にできる。フリーの動画も多いので学校の先生も使いやすく、英語教育に使うなら最強のツールですね。 小学校から英語教育が必須になる中、動画から学ぶことが今後のトレンドになっていくと思います。


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英国留学中の嶋津さん(右から3番目)



── 既存の英語教育とは順番が逆なのが斬新ですね。文法項目を1つずつ教えていくのではなく、まず現地の海外大学の授業を見せて一気にレベルを引き上げてしまう。そこから細かいところを教えていく。

嶋津さん:そうですね。「段階的に積み上げていく」という教え方は、一般的な教え方ですが、「一番スピードが遅い教え方」なんです。そして、一度躓いてしまったらついていけなくなってしまう可能性がある教え方でもあります。

日本の英語教育はさまざまな問題が指摘されていますが、「形にこだわりすぎている」、「多読させない」という点は大きな問題だと思います。日中韓台の教科書を比べると、日本以外の国では厚さが4倍〜6倍あるんですね。アジア諸国は英語教育でそれだけ読ませているし、実際に英語ができる人が日本よりはずっと多い。中国の教科書では、現在完了形が早い段階で出てきたりします。


── 日本人が他のアジア諸国の人と比べても英語ができない理由は何だと思いますか?

嶋津さん内向き、下向き、後ろ向きのメンタリティを持っている人が多くなったことが1つの原因だと思います。これは日本人で海外留学する学生の数が減っていることからもわかりますね。ただ、実際のところ「日本人は英語を学ぶ必要性が少ない」というのも大きな理由だと思います。戦後の欧米諸国に学べ追いつけの時代とは違い、国が豊かになって、必ずしも日本人は留学する必要がなくなりました。現在も、90%の日本人は英語を学ぶ必要がないです。でも、これから超高齢化が進み人口が減って、経済力が落ちてきたときに内向き志向のままではまずい、と危機感を持っています。

学生同士が教え合う教育

── 今回のTeacher Awardを受賞したきっかけにもなった「白熱イングリッシュキャンプ」はどんなところがイノベーティブなんですか?

嶋津さん:白熱イングリッシュキャンプは世界の名門大学生(ハーバード大学・ロンドン大学・マサチューセッツ工科大学など)と日本の学生が議論を通して交流するプロジェクト型の合宿です。キャンプでは中高の学生が参加しますが、学年で隔てることはしていません。学年は関係なく、能力別に分けています。

これは「学生同士が教え合う教育」を推進するためで、僕自身が経験したことでもあるんですが、教える人が一番学べるんですね。なので、人より早く理解した学生がいれば、その学生が他の学生に教える、といった学生が教え合う仕組みを取り入れています。

そのためには、能力別の編成にすれば、自然に教え合う環境になります。

── 高学年の学生が低学年の学生に教える、というわけでもない?

嶋津さん:いえ、学年は関係ないですね。わかってることがあれば誰かに教えるし、わからないことがあれば誰かに教えてもらう、ということです。

これは教えたことがある人はよく分かると思うんですが、人に教えるプレッシャーとか責任感って何よりも大きいんですね。人に教えて理解してくれなかったらどうしよう、と思うわけです。だから勉強量も、教えるために準備する時間も増えます。「明日これを教えてね」と言うだけでこのプレッシャーを与えられるし、理解力も高めることができます。わかってる学生にとっても良いし、わからない学生にとっても良いという相乗効果が期待できるわけです。

── キャンプという特別な環境を作るところにはどんな意味がありますか?

嶋津さん:決まりきった学校での学習とか、日常から抜け出すという意味で、キャンプという非日常的な環境はとても効果的です。また、キャンプでは英語で議論しないといけない状況を作るようにしています。キャンプのために英語をがんばるというのが、学生のモチベーションにもなっています。

あとは、キャンプには区切りをつけるという目的もあります。英語学習にも波があるので、普段は先ほど話したような動画ベースの英語学習を進めてインプットして、キャンプで頭を切り替えて発散(アウトプット)してもらうというイメージです。

英語で英語を教えるのは非効率的

── キャンプの間は英語しか話してはいけない、とかはあるんですか?

嶋津さん:いえ、そんなことは全然ないです。実は、英語だけで英語を教える、というのは学習者に良くないんです。イマージョン教育などと呼ばれて、英語を英語で教えることは最近まで流行りだったんですが、実はこれは最適ではなく、特に僕らのような大人の学習者の場合、第一言語(日本人であれば日本語)を活用して英語を学習したほうが圧倒的に効果的なんです。

もちろん、全部日本語にしていい、というわけではなく、英語で話さないといけない場面はあるのですが、キャンプ期間中をすべて英語にするのは逆に効率が 悪く、格差を広げてしまう危険性もあります。


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白熱イングリッシュキャンプでの議論の様子


── 嶋津さんの教材(動画ベースの英語コンテンツ)を見ていると、社会人が観ても普通におもしろいな、と思いました。コンテンツとしてのおもしろさはやっぱり重要ですか?

嶋津さん:とても重要です。学校の先生から相談を受けることがあるんですが、学校の教材がおもしろくないので生徒が全然授業を聞いてくれない。でも指定された教材は使わないといけないというジレンマに先生たちは悩んでいますね。 予備校・塾産業が先を行ってしまうのも仕方ないことかと思います。でも、英語教育の有識者会議に出ても、偉い人たちは完全に的外れな議論をしていると感じることが多々あります。平成の英語教育を受けた当事者である今だからこそ感じることもあります。

── 確かに英語の教科書は内容がつまらない印象があります。有識者会議に出るような偉い人は英語教育における「コンテンツのおもしろさ」についてはどう思っているんですか?

嶋津さん:コンテンツのおもしろさが重要だと言ってくれる人もいますが、僕らの世代が面白いと思う部分、必要だと思う部分が有権者の方々と噛み合っていないのが現状です。生徒目線で若者の意見を取り入れながら時代の潮流にあったコンテンツを作ることが大切です。

── コンテンツのおもしろさは重要じゃないと言う人もいるんですか?すごく当たり前のことだと思うのですが…

嶋津さん:いっぱいいますよ。というか、コンテンツの重要性を理解してくれない人がほとんどです。学校組織の中では革新的なものや過去の事例がないものはなかなか受け入れられません。なので、そこを理解してくれる学校は僕らを呼んでくれますし、パートナーとして提携していますね。

ホームステイ先の家族にイジメられたのが原点

── 嶋津さんの英語教育に対するパッションの原点は何ですか?

嶋津さん:高校2年生の夏にオーストラリアで1カ月間のホームステイをしたんですが、そこで日本人に偏見をもったホームステイ先にあたってひどい差別を受けました。冷蔵庫は使用禁止、トイレットペーパーは自分で買わないといけない、ご飯は茹でただけの味のないマカロニとか、しけったポテチにマヨネーズとか、すべてふざけたようなものしか出てこない、食事はキッチンに立たされて座らせてもらえない、など。ずっと悪口ばっかり言われているのはわかったんですが、英語ができなかったので何も言い返せない。英語が出てこないので黙って受け入れるしかありませんでした。

それまで英語に関しては良い教育を6年間も受けてきたはずなのに何も英語で言い返せない。そのとき、絶対に日本の英語教育はおかしい、と思ったんです。文法偏重型で議論をすること、論破することに重きが置かれていないことに気がつきました。その体験がきっかけで、のちに海外進学塾を立ち上げることになりましたし、日本の英語教育の被害者としての怒りが今のパッションにつながっています。

── イギリスで英語教授法を学んで、日本人に英語を教えるのと、外国人に英語を教えるのとで、教え方はどう変わってきますか?

嶋津さん: 僕はCambridge CELTAというコースを受けてイギリスに移住した移民に英語を教えたことがあります。多国籍で規律がない集団なので、立ち歩いたり、ケータイ触ったり無駄話をしたり、日本と比べて規律がありませんでした。そして、4技能(スピーキング、リスニング、ライティング、リーディング)のうち、スピーキングが一番重要視されていました。とにかくしゃべるので、文法とかはおかまいなし。そこで僕たちが適材適所にフィードバックをしながら学習者から英語を引き出していく、ということをします。

たとえば、「Tokyo is the capital of Japan.(日本の首都は東京です)」というコンセプトを教えないといけないとします。何と質問して聞きますか? 普通は「What is the capital of Japan?(日本の首都はどこですか?)」と聞きますよね。でも、これでは知っている生徒は答えられますが、知らない生徒は答えられません。この質問はオープンすぎるので、もっと生徒に思考させて答えさせないといけないわけです。そこで、わざと「Is Osaka the capital of Japan, right?(日本の首都は大阪だよね?)」と聞いて、生徒の反応を見る。生徒がちょっと考えて「ちがうよ、東京だよ」と言ってくれたら、この生徒は理解してくれたと判断できます。

「東京だよね?」とか「わかった?」と聞いたら生徒は「うん」と答えます。でもわざと聞き方を変えることで、生徒に考えさせて理解させることができるんです。これこそコミュニカティブな教え方、つまり、先生と生徒とのやり取りの中で教えていく、ということなんです。

反対に、日本のトップダウンの教育方法は一方通行なんですね。コミュニカティブな教え方は、教師から生徒に一方的に何かを教えるのではなく、教師が学生から答えを引き出す、ということなんです。

── 英語の勉強にそもそもモチベーションを感じていない生徒にひとことお願いします。

嶋津さん:とある田舎の学校の先生にこう言われたことがあります。「この子たちは田舎で生まれて田舎で死んでいくから留学なんて必要ないんですよ」

でも、これは本当に無責任な発言で、これまでは世界に出ていく必要がなかった日本ですが、今の中学生の75%は将来何らかの形で英語を使うというデータもあります。日本人は日本に留まって国内戦を繰り広げている場合ではないのです。世界に目を向けて日本人として立ち位置を再確認し、選択肢の幅を広げていかなければなりません。日本がどれだけ素晴らしく恵まれていている国なのか、また日本の常識が世界では非常識であることに早い段階で気づき行動を起こしてもらいたいです。


日本人にとって永遠の課題とも言える英語学習。日本語と英語は違いすぎる、日本の文化と英語は合わない、など、英語を勉強しない理由はたくさんありそうですが、それはただの言い訳なのかもしれません。実際、中国、韓国といった国は言葉や文化は同じくらい違っても、英語でコミュニケーションできる人は日本よりずっと多いという実感があります。

海外に滞在するハードルは今後ますます低くなっていきます。海外留学をする日本人学生が減っていると言われて久しいですが、できるだけ若いうちに海外を見て、外国語を学ぶという経験はとても有意義なもの。そのためには、効率的に外国語を学ぶことが第一歩になりそうです。


(文/大嶋拓人、協力/ピアソンジャパン株式会社)


ピアソン・ジャパンは、ロンドンに本部を置く世界最大規模の教育サービス会社、ピアソンPLCの日本支社です。従来スタイルの英語教材はもとより、最新のテクノロジーを駆使したデジタル英語教材、eラーニング教材、電子辞書、オンラインアセスメントなどの分野や、カリキュラム開発、人材育成、資格認定事業にも取り組んでおり、これらの最先端のソリューションは様々な教育機関、企業、団体等で採用され、評価されています。
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